2017年07月19日
「チング 永遠の絆」「シルミド」「ブラザーフッド」
この2~3日の間に3本のハードな韓流映画を観ました。深夜になって、パートナーがテレビの前でそのまま寝てしまって、もう「何してるの?」と訊かない時刻(0時前後~)から観る、パートナーが絶対に一緒に見てくれそうもない映画ばかり(笑)。
「チング 友へ」も良かったけれど、続編の「チング 永遠の絆」はもっと良かった。「友へ」のほうは青春物語でもあって、学校時代親友たちがそれぞれの道を歩んで、最後は敵対するやくざの幹部になって殺さざるをえなくなるまで、続編はその後日譚で、殺しを指示した罪を自ら認めて17年間服役したジュンソクが出所してみたら、弟分だったウンギがジュンソクに近い組員を消したり排除したりして組の実権を握り、親分をないがしろにして幅をきかせ、ジュンソクを邪魔扱いする、という日本のやくざ映画によくあるパターン。ついでにいうと、回想的に挿入されるジュンソクの父親が日本のやくざと抗争を制して釜山の闇の世界の支配権を獲得するエピソードなんかは、ゴッドファーザーのパートⅡだったかな、無残な殺し合いだけのアルパチーノの世代から言えば祖父にあたる人物の生涯を描いて見せたのが下敷きになっているでしょう。
貧しい移民の子としてアメリカにやってきたところから、もちろん無法な暴力に訴えながらではあるけれども、家族や仲間の信頼に支えられ、地域の人々に頼られる次郎長的な一面もまだ完全には失っていない古き良き時代の土地の顔役からのし上がって行った祖父の物語。3代目のアルパチーノの世代になれば、もう裏切りと殺戮ばかりの荒涼たる世界になってしまっている。これはジュンソクの世界と父親の生きて築いてきた世界との違いでもある・・・。
さて、ウンギにないがしろにされた組長(会長)がジュンソクに資産を譲ることでウンギに対抗する力を得たジュンソクがウンギへの反撃に打って出る、というのもパターンどおり。
そこへ、ジュンソクが服役中に訪ねてくる高校時代の女友達が自分の息子を守ってくれと依頼し、ジュンソクは反抗的で無鉄砲なこの若造を自分の若いころに重ねるようにして守り、部下として育てようとします。しかし、実はこの若造ソンフンは、ジュンソクに敵対し、ジュンソクが殺したかつての親友の一人ドンスの忘れ形見で、ウンギがこの因縁を利用してジュンソクとドンスを離反させようと企むといった構成が、単純なやくざの内輪もめ抗争の話に、「チング」の両篇に共通する人間的なテーマ、若き日の友情とその後の苛烈な運命を描くことで人生の切なさを感じさせるような核心的なテーマを埋め込んでいて、見ごたえのある映画になっています。
なんといってもジュンソク役のユ・オソンの、渋い、凄みのあるやくざが、宿命の切なさのようなものを背負った表情が魅力的です。ウンギを殺るシーンのこの男の迫力は、日本の形式美をなぞるような映画の中の人情やくざとはまた違った凄みの魅力があります。
もう一つ続編の特徴は、映像が相当スタイリッシュなものになっていることです。韓国で大河ノワールとか言われたらしいけれど、たしかに映像は切れ味のいい鮮烈な光景を切り取って見せていて、内容は演歌的なお決まりパターンのやくざ映画なのに、かったるい、古臭い印象が無いのは、その表現のスタイルが新しいからでしょう。
さて、「シルミド」。現実に金日成暗殺の特殊部隊を組織し、それが政治的な和平方針への転換で実施されず、特殊部隊の隊員たちがバスで大統領府に向かおうとして軍の包囲する中、手榴弾で自害した、という事件があったようで、ほぼそれにのっとってつくられた作品らしく、韓国内でも詳細が伏せられた現実の事件を初めて具体的に映画の形で表現したためでしょう、すごい観客動員になったらしい。ただ、映画作品としては、それほどすぐれた作品にはなっていないと思いました。
この映画では特殊部隊はどうしようもない反社会的な犯罪者で、どっちみち死刑にされる者たちであった、とされていますが、現実は高給の公募に集まってきた一般人だったそうです。私ならそちらのほうが興味があり、そういう普通の人たちひとりひとりの、それまでの人生をスケッチして、どういう気持ちで特殊部隊に応募するかを見せてほしかった。でもこの映画は、ちょうどリー・マービン主演のすぐれた娯楽戦争映画「突撃隊」(だったと思う)と設定と同じように、殺人者たちを隊員として厳しいトレーニングで特殊部隊のプロフェッショナルとしてよみがえらせる過程に時間を割きます。
娯楽映画としてはそうなってしまうんだろうなとは思いますが、人間的なドラマとしては面白くない。
そして、出撃で嵐の中、ボートをこぎ出したところで、急遽作戦中止命令が出て、上官が止めにはいる。こういうところは、リチャード・バートン主演のやはり面白い戦争映画「ワイルド・ギース」と同様、一度命がけの命令をうけて出動したら、それを政治的な都合で中止させられ、政治権力者にとっては生きていてもらっては不都合な部隊だから抹殺される運命になる、というパターン。でもこの作品では敵地へ乗り込んでからではなく、まだ島から出るや否や、というところなので、すべては韓国軍の内部を場として起きる話で、閉塞感があります。
三つめが「ブラザーフッド」。これは朝鮮戦争の中で引き裂かれ、翻弄される家族の物語で、非常に見ごたえのある作品でした。手足が吹っ飛び、全身火だるまになって悶え、ハラワタが飛び散る戦場のまさに地獄絵のような光景がたびたび登場しますが、B級ホラーと変わらないそんなのを売り物にする映画ではない。
貧しくても平和でささやかな夢をもって仲良く生きる家族の2本柱になっている兄弟が戦争が始まった途端、家族から生皮を割くように引きはがされ、家族の期待の星である高校生の弟を守るために、靴磨きで一家を支えてきた兄が一緒に軍隊へ。
そこで勲章をとって、上官との取引で弟を除隊させようとする兄は、自らの命を顧みない働きをし、運よく成功させて英雄になっていくけれども、兄が自分のために進んで死地に赴いていることに気づいている弟は反発し、むしろ兄から気持ちが離れていく。
兄は死地を潜り抜けて功績をあげるたびに、捕虜となった敵を情け容赦なく銃殺するような戦場の鬼になっていく。・・とまぁ戦地での兄弟の確執等々を経て、最後は立ち寄った故郷で民兵の赤狩りに会う兄嫁を守ろうとして、兄嫁は殺され、弟は捕らえられ、兄は部隊へ戻されるが、勲章と引き換えに弟を助ける約束が上官が変わって果たされず、新任の大隊長と揉めるうち、大隊長は弟もその中に居る囚われた捕虜たちを全員焼き殺す命令を出し、兄が駆け付けたとき囚われていた倉庫は全焼。
自分が弟に送った万年筆がころがっていて、そばに黒こげの骸骨。弟を殺されたと思った兄は大隊長を殺害。しかし弟は戦友に助けられて生きていて、入院先の野戦病院で戦友と、朝鮮戦争が韓国軍の勝利に終わりそうだ、という朗報を聴く。
ところが中国の義勇軍10万の参戦で形勢は一変、再び弟たちの軍は激戦の最前線へ。そこで兄がなんと北朝鮮の最強部隊「太極旗部隊」の隊長となっていると聞かされた弟は、一度はあいつとは縁を切った、と言ったものの、未配でまわってきた兄の手紙を読んで、元のままの心をもつ兄を知り、除隊を目前にひかえた身で再び最前線へ、兄の翻意を促しに行く。
激戦の戦場で獅子奮迅の活躍をする敵軍旗部隊の兄を探し当て、なかなか弟を認識できずに襲い掛かる兄の銃剣をかわして、ようやく再会する2人。兄はあとでいくと弟を逃がし、一人とどまった兄は機関銃で義勇軍の追手を掃射して食い止める。
息をつく間もない緊迫の展開で、韓国映画の土性骨を見せられる感じの作品でした。
「チング 友へ」も良かったけれど、続編の「チング 永遠の絆」はもっと良かった。「友へ」のほうは青春物語でもあって、学校時代親友たちがそれぞれの道を歩んで、最後は敵対するやくざの幹部になって殺さざるをえなくなるまで、続編はその後日譚で、殺しを指示した罪を自ら認めて17年間服役したジュンソクが出所してみたら、弟分だったウンギがジュンソクに近い組員を消したり排除したりして組の実権を握り、親分をないがしろにして幅をきかせ、ジュンソクを邪魔扱いする、という日本のやくざ映画によくあるパターン。ついでにいうと、回想的に挿入されるジュンソクの父親が日本のやくざと抗争を制して釜山の闇の世界の支配権を獲得するエピソードなんかは、ゴッドファーザーのパートⅡだったかな、無残な殺し合いだけのアルパチーノの世代から言えば祖父にあたる人物の生涯を描いて見せたのが下敷きになっているでしょう。
貧しい移民の子としてアメリカにやってきたところから、もちろん無法な暴力に訴えながらではあるけれども、家族や仲間の信頼に支えられ、地域の人々に頼られる次郎長的な一面もまだ完全には失っていない古き良き時代の土地の顔役からのし上がって行った祖父の物語。3代目のアルパチーノの世代になれば、もう裏切りと殺戮ばかりの荒涼たる世界になってしまっている。これはジュンソクの世界と父親の生きて築いてきた世界との違いでもある・・・。
さて、ウンギにないがしろにされた組長(会長)がジュンソクに資産を譲ることでウンギに対抗する力を得たジュンソクがウンギへの反撃に打って出る、というのもパターンどおり。
そこへ、ジュンソクが服役中に訪ねてくる高校時代の女友達が自分の息子を守ってくれと依頼し、ジュンソクは反抗的で無鉄砲なこの若造を自分の若いころに重ねるようにして守り、部下として育てようとします。しかし、実はこの若造ソンフンは、ジュンソクに敵対し、ジュンソクが殺したかつての親友の一人ドンスの忘れ形見で、ウンギがこの因縁を利用してジュンソクとドンスを離反させようと企むといった構成が、単純なやくざの内輪もめ抗争の話に、「チング」の両篇に共通する人間的なテーマ、若き日の友情とその後の苛烈な運命を描くことで人生の切なさを感じさせるような核心的なテーマを埋め込んでいて、見ごたえのある映画になっています。
なんといってもジュンソク役のユ・オソンの、渋い、凄みのあるやくざが、宿命の切なさのようなものを背負った表情が魅力的です。ウンギを殺るシーンのこの男の迫力は、日本の形式美をなぞるような映画の中の人情やくざとはまた違った凄みの魅力があります。
もう一つ続編の特徴は、映像が相当スタイリッシュなものになっていることです。韓国で大河ノワールとか言われたらしいけれど、たしかに映像は切れ味のいい鮮烈な光景を切り取って見せていて、内容は演歌的なお決まりパターンのやくざ映画なのに、かったるい、古臭い印象が無いのは、その表現のスタイルが新しいからでしょう。
さて、「シルミド」。現実に金日成暗殺の特殊部隊を組織し、それが政治的な和平方針への転換で実施されず、特殊部隊の隊員たちがバスで大統領府に向かおうとして軍の包囲する中、手榴弾で自害した、という事件があったようで、ほぼそれにのっとってつくられた作品らしく、韓国内でも詳細が伏せられた現実の事件を初めて具体的に映画の形で表現したためでしょう、すごい観客動員になったらしい。ただ、映画作品としては、それほどすぐれた作品にはなっていないと思いました。
この映画では特殊部隊はどうしようもない反社会的な犯罪者で、どっちみち死刑にされる者たちであった、とされていますが、現実は高給の公募に集まってきた一般人だったそうです。私ならそちらのほうが興味があり、そういう普通の人たちひとりひとりの、それまでの人生をスケッチして、どういう気持ちで特殊部隊に応募するかを見せてほしかった。でもこの映画は、ちょうどリー・マービン主演のすぐれた娯楽戦争映画「突撃隊」(だったと思う)と設定と同じように、殺人者たちを隊員として厳しいトレーニングで特殊部隊のプロフェッショナルとしてよみがえらせる過程に時間を割きます。
娯楽映画としてはそうなってしまうんだろうなとは思いますが、人間的なドラマとしては面白くない。
そして、出撃で嵐の中、ボートをこぎ出したところで、急遽作戦中止命令が出て、上官が止めにはいる。こういうところは、リチャード・バートン主演のやはり面白い戦争映画「ワイルド・ギース」と同様、一度命がけの命令をうけて出動したら、それを政治的な都合で中止させられ、政治権力者にとっては生きていてもらっては不都合な部隊だから抹殺される運命になる、というパターン。でもこの作品では敵地へ乗り込んでからではなく、まだ島から出るや否や、というところなので、すべては韓国軍の内部を場として起きる話で、閉塞感があります。
三つめが「ブラザーフッド」。これは朝鮮戦争の中で引き裂かれ、翻弄される家族の物語で、非常に見ごたえのある作品でした。手足が吹っ飛び、全身火だるまになって悶え、ハラワタが飛び散る戦場のまさに地獄絵のような光景がたびたび登場しますが、B級ホラーと変わらないそんなのを売り物にする映画ではない。
貧しくても平和でささやかな夢をもって仲良く生きる家族の2本柱になっている兄弟が戦争が始まった途端、家族から生皮を割くように引きはがされ、家族の期待の星である高校生の弟を守るために、靴磨きで一家を支えてきた兄が一緒に軍隊へ。
そこで勲章をとって、上官との取引で弟を除隊させようとする兄は、自らの命を顧みない働きをし、運よく成功させて英雄になっていくけれども、兄が自分のために進んで死地に赴いていることに気づいている弟は反発し、むしろ兄から気持ちが離れていく。
兄は死地を潜り抜けて功績をあげるたびに、捕虜となった敵を情け容赦なく銃殺するような戦場の鬼になっていく。・・とまぁ戦地での兄弟の確執等々を経て、最後は立ち寄った故郷で民兵の赤狩りに会う兄嫁を守ろうとして、兄嫁は殺され、弟は捕らえられ、兄は部隊へ戻されるが、勲章と引き換えに弟を助ける約束が上官が変わって果たされず、新任の大隊長と揉めるうち、大隊長は弟もその中に居る囚われた捕虜たちを全員焼き殺す命令を出し、兄が駆け付けたとき囚われていた倉庫は全焼。
自分が弟に送った万年筆がころがっていて、そばに黒こげの骸骨。弟を殺されたと思った兄は大隊長を殺害。しかし弟は戦友に助けられて生きていて、入院先の野戦病院で戦友と、朝鮮戦争が韓国軍の勝利に終わりそうだ、という朗報を聴く。
ところが中国の義勇軍10万の参戦で形勢は一変、再び弟たちの軍は激戦の最前線へ。そこで兄がなんと北朝鮮の最強部隊「太極旗部隊」の隊長となっていると聞かされた弟は、一度はあいつとは縁を切った、と言ったものの、未配でまわってきた兄の手紙を読んで、元のままの心をもつ兄を知り、除隊を目前にひかえた身で再び最前線へ、兄の翻意を促しに行く。
激戦の戦場で獅子奮迅の活躍をする敵軍旗部隊の兄を探し当て、なかなか弟を認識できずに襲い掛かる兄の銃剣をかわして、ようやく再会する2人。兄はあとでいくと弟を逃がし、一人とどまった兄は機関銃で義勇軍の追手を掃射して食い止める。
息をつく間もない緊迫の展開で、韓国映画の土性骨を見せられる感じの作品でした。
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