2016年06月23日
小澤雅人監督「風切羽」
きょうゼミのことで気がかりだった疑問が氷解して不安がなくなり、ほっとしたので、前に借りてきて見ていなかったDVDを見ました。なにか新しい日本の作品がないかな、と思って手にとって、キャッチコピーを見て勘で、良さそうだな、と見当をつけて借りてきていたのです。
当たり、でした。いい作品だと思います。秋月美佳という若い女優さんを私は知らなかったのですが、その良さをこれだけ引き出しているだけで、見応えがありました。
ほとんど生まれてきたことが災難のように親に捨てられ、「施設」にがんじがらめに縛られ、羽を切られてかごに閉じ込められたインコ(あまりに露わにその映像が出てきてしまうのですが)のように取り巻く世界のすべてから拒まれて心に深手を負う孤独な少女の一日の逃避行と、そのあいだに出遭った同じように傷ついた少年の間に生まれる束の間の交感を描いています。
愛に飢えて乾いた少女の絶望的な孤独とその胸の底からの叫び、少年とのささやかな交感で一瞬溶けていく少女の心を、この女優さんが体当たりで好演しています。
もちろん本当に深手を負った現実の少女の多くは、こんなに内側からあふれるような輝き、美しさを持てないだろうし、もっと屈折し、ひねくれ、醜く汚れているでしょう。こんなに健康な生命の輝きに満ちた身体を持つこともできないでしょう。
でも世界のすべてから拒まれ、傷つき、万引きをし、好きでもない男と交わり、人に裏切られ、裏切り、閉じた世界に目も耳も閉ざして頑なにこもってみても、そこで薄汚れ屈折し醜い存在になるはずの彼女を、この女優さんの健康な身体が、汚れない美しさ、いのちの輝きが、裏切ってしまう。
そのために、この少女の傷ついた心のさらに向こうにひそんでいる愛への渇望が、非常に純化されて伝わってきます。
つまりそれは、こういう役にこういう健康美あふれる女優さんを使うのはミスキャストじゃないか、というリアリズムから言えば言えそうな、微妙で危ういところがあるとも言えるかもしれませんが、私はそんなふうに逆にとらえて、そこがいいと思ってみていました。ある意味でこれは現代の愛のfairy tale、おとぎばなしなのですから。
私の大好きなシーンの1つは、この少女がスリップ姿で鏡に向かう場面で、背中には幼い頃、姉に熱湯をかけられてできた大きなケロイドがみえる。彼女が鏡の前でバレエのような手の仕草をしてひとり楽しむシーンです。すっと伸ばされた腕、手、指がとても美しく、見惚れてしまいます。きっとこの人はバレエの経験があって、それも若いけれどかなり年季がはいっているだろうな、というのが一瞬でわかるようなところがあります。
こういう場面をしつらえる、ということ自体が、監督がこの少女を堕天使と見紛う境遇に置きながら傷ついても汚れない愛の妖精として描こうとしていることの証だという気がします。
もう一つは、やたら通りがかりの知らない人をつかまえては「ぼくのことを知りませんか?」と「自分探し」をしている、実はこれも心に深手を負う少年と出遭い、自転車に乗せてもらって街を行くうち、少女がかつて交わった中年男など不都合な連中に次々に出遭い、そのたびに少年の背中をたたいて、はやく行け、と促して逃げだすことを繰り返しているうち、何も言葉もなく、ただ激しく少年の背を後ろから少女が叩き続ける場面。あそこは繰り返し見ても素敵な場面です。
少年が自転車を放り出すと、歩き去ろうとする少女に立ちはだかって押しとどめ、向き合う、はじめて少女の心が解けて、心が通い合う場面です。ふたりとも無言だけれど、観客には二人の気持ちの高まりと炸裂、そして解けていく少女の気持ちまで、鮮やかに伝わってきます。
少年の父親がからんで、二人で殺して埋めたと思える場面で、大人なんて全部死んでしまえ、と二人で叫びながら埋めた地面を踏んづける場面も悪くはないし、その絶叫の場面のあとの闇の中で寄り添って座る二人をバックから横顔ととらえて、囁くように少女が、むかしインコを飼っていてね・・と語る場面とその声もいいですね。
そしてラスト、やっぱり再度母親の家に帰っていって、招き入れられ、そこに籠にはいったインコがいて、よう、久しぶり、と、あの終わり方もいい。
もちろんロードムービー的なカッタルイところがないかと言えばあるし、ああいう施設に入れられているとか、それでお金の管理がどうとか、そういう設定はいくらなんでももうちっとなんとかならんか、とか、ラスト以外のインコの使い方や、置物のインコだとか、あのへんのいい加減さはなんとかならんか、とか、作品の完成度を求めるような見方をすればイライラするところはいっぱいあります(笑)。
でも私はこの監督は知らないけれど、きっとまだ比較的若い(この映画をつくったときは)のではないかと思うし、ある意味では自主制作映画みたいな、プロのベテラン監督なら決してやらないような未熟な尻尾を残したようなところがあるような気がしますが、この女優さんをこれだけ美しく輝かせた功績は高く評価したい(笑)。
当たり、でした。いい作品だと思います。秋月美佳という若い女優さんを私は知らなかったのですが、その良さをこれだけ引き出しているだけで、見応えがありました。
ほとんど生まれてきたことが災難のように親に捨てられ、「施設」にがんじがらめに縛られ、羽を切られてかごに閉じ込められたインコ(あまりに露わにその映像が出てきてしまうのですが)のように取り巻く世界のすべてから拒まれて心に深手を負う孤独な少女の一日の逃避行と、そのあいだに出遭った同じように傷ついた少年の間に生まれる束の間の交感を描いています。
愛に飢えて乾いた少女の絶望的な孤独とその胸の底からの叫び、少年とのささやかな交感で一瞬溶けていく少女の心を、この女優さんが体当たりで好演しています。
もちろん本当に深手を負った現実の少女の多くは、こんなに内側からあふれるような輝き、美しさを持てないだろうし、もっと屈折し、ひねくれ、醜く汚れているでしょう。こんなに健康な生命の輝きに満ちた身体を持つこともできないでしょう。
でも世界のすべてから拒まれ、傷つき、万引きをし、好きでもない男と交わり、人に裏切られ、裏切り、閉じた世界に目も耳も閉ざして頑なにこもってみても、そこで薄汚れ屈折し醜い存在になるはずの彼女を、この女優さんの健康な身体が、汚れない美しさ、いのちの輝きが、裏切ってしまう。
そのために、この少女の傷ついた心のさらに向こうにひそんでいる愛への渇望が、非常に純化されて伝わってきます。
つまりそれは、こういう役にこういう健康美あふれる女優さんを使うのはミスキャストじゃないか、というリアリズムから言えば言えそうな、微妙で危ういところがあるとも言えるかもしれませんが、私はそんなふうに逆にとらえて、そこがいいと思ってみていました。ある意味でこれは現代の愛のfairy tale、おとぎばなしなのですから。
私の大好きなシーンの1つは、この少女がスリップ姿で鏡に向かう場面で、背中には幼い頃、姉に熱湯をかけられてできた大きなケロイドがみえる。彼女が鏡の前でバレエのような手の仕草をしてひとり楽しむシーンです。すっと伸ばされた腕、手、指がとても美しく、見惚れてしまいます。きっとこの人はバレエの経験があって、それも若いけれどかなり年季がはいっているだろうな、というのが一瞬でわかるようなところがあります。
こういう場面をしつらえる、ということ自体が、監督がこの少女を堕天使と見紛う境遇に置きながら傷ついても汚れない愛の妖精として描こうとしていることの証だという気がします。
もう一つは、やたら通りがかりの知らない人をつかまえては「ぼくのことを知りませんか?」と「自分探し」をしている、実はこれも心に深手を負う少年と出遭い、自転車に乗せてもらって街を行くうち、少女がかつて交わった中年男など不都合な連中に次々に出遭い、そのたびに少年の背中をたたいて、はやく行け、と促して逃げだすことを繰り返しているうち、何も言葉もなく、ただ激しく少年の背を後ろから少女が叩き続ける場面。あそこは繰り返し見ても素敵な場面です。
少年が自転車を放り出すと、歩き去ろうとする少女に立ちはだかって押しとどめ、向き合う、はじめて少女の心が解けて、心が通い合う場面です。ふたりとも無言だけれど、観客には二人の気持ちの高まりと炸裂、そして解けていく少女の気持ちまで、鮮やかに伝わってきます。
少年の父親がからんで、二人で殺して埋めたと思える場面で、大人なんて全部死んでしまえ、と二人で叫びながら埋めた地面を踏んづける場面も悪くはないし、その絶叫の場面のあとの闇の中で寄り添って座る二人をバックから横顔ととらえて、囁くように少女が、むかしインコを飼っていてね・・と語る場面とその声もいいですね。
そしてラスト、やっぱり再度母親の家に帰っていって、招き入れられ、そこに籠にはいったインコがいて、よう、久しぶり、と、あの終わり方もいい。
もちろんロードムービー的なカッタルイところがないかと言えばあるし、ああいう施設に入れられているとか、それでお金の管理がどうとか、そういう設定はいくらなんでももうちっとなんとかならんか、とか、ラスト以外のインコの使い方や、置物のインコだとか、あのへんのいい加減さはなんとかならんか、とか、作品の完成度を求めるような見方をすればイライラするところはいっぱいあります(笑)。
でも私はこの監督は知らないけれど、きっとまだ比較的若い(この映画をつくったときは)のではないかと思うし、ある意味では自主制作映画みたいな、プロのベテラン監督なら決してやらないような未熟な尻尾を残したようなところがあるような気がしますが、この女優さんをこれだけ美しく輝かせた功績は高く評価したい(笑)。
saysei at 00:52│Comments(0)│TrackBack(0)│