2011年04月04日

李相日「悪人」〈映画)

 原作者が監督の李と共に脚本を書いて映画化した作品。原作も良かったが、映画も負けず劣らず良かった。

 脚本に無駄がなくて、あの長編を実にうまく映像化している。原作で丁寧に細部が描かれる一人一人の日常とその中での思いが、芸達者な俳優の演技で伝わってくる。出演者はどれもそれぞれの役柄をみごとに演じている。深津絵里は乾いた心に水が染み入るように男を受け入れていく女をほんとうにみごとに演じているし、妻夫木聡も不幸な家庭環境の中で祖母に育てられてきた朴訥で無口な青年というあまり似合いそうにもないキャラクターをよく演じていたし(この配役は意外だった)、柄本明、樹木希林らのベテランが脇をしっかり固めて存在感を示し、いま勢いのある満島ひかりや岡田将生が期待どおりだった。

 原作を映画の前に読んだのだが、映画のチラシをちらっと見てしまったために、どう振り払おうとしても、読んでいて光代に深津絵里の顔がぴったり重なって、それ以外に考えられなくなってしまった。見たときはストーリーも知らなかったのだけれど、最初から光代を演じるのは深津絵里以外にないと思い込んで読んでいたし、実際にそのとおり、この人にしかできないような表情の演技が見られた。

 原作で私が気に入っていた「・・・でもさ、どっちも被害者にはなれんたい」というセリフはなかったけれども、ラストに至る運びの中で十分それは伝わってきた。ラストの光代と二人のシーンでみせる祐一の明るいアップの表情は印象的だった。総じてカメラが良かった。烏賊の目玉から入っていく映像はぞくっとした。



saysei at 00:03│Comments(0)TrackBack(0)

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
記事検索
月別アーカイブ