2015年06月
2015年06月28日
『忘れられた巨人』
カズオ・イシグロ版のドラクエといった印象で読み終わった。といっても実はゲームには興味がないので、ドラクエってこういうものだそうな、というレベルでしか知らないけれど。主人公がなにかを求めて旅をする途中でいろんな道連れにであったり、思わぬ災難や敵に遭遇し、そのつど新しい武器を手に入れたり、思わぬ味方に助けられて切り抜け、生き延びてゴールらしきものへ到達していく、ファンタージーの装いで展開されるゲーム。
映画も原作も良かった『日の名残り』 以外はそれほど良い読者ではないので、最初はなんでこんなものを小説で書かなければならないかな、と思いながら読んでいたけれど、さすがに後半になると引き込まれて、読み終えるとひとつの新しい世界を経験した、堪能した、という気分。
全編を貫く軸は老夫婦の「霧」で記憶をおぼろに隠された過去、ずっと二人の心に深く突き刺さった棘、愛と不実と息子の出奔の記憶が二人を突き動かす無意識の衝動だろうけれども、これまた全編の背景となっているのは6世紀のブリトン人とサクソン人との和解と裏切りと幼児虐殺を含む凄絶な皆殺し戦の歴史的記憶とその復讐劇といったもうひとつのストーリー性で、このあたりはいくら斬新な文学的試みを見せても、アメリカの小説のように方法意識で飛んでしまわないで、ずっと地を這うような社会性を引きずってきたイギリス文学の優れた伝統を引き継いで、いまやその代表格になってしまったこの日系作家の性格をよく示している気がした。
チャレンジングな作品、ひとことで言えば。
映画も原作も良かった『日の名残り』 以外はそれほど良い読者ではないので、最初はなんでこんなものを小説で書かなければならないかな、と思いながら読んでいたけれど、さすがに後半になると引き込まれて、読み終えるとひとつの新しい世界を経験した、堪能した、という気分。
全編を貫く軸は老夫婦の「霧」で記憶をおぼろに隠された過去、ずっと二人の心に深く突き刺さった棘、愛と不実と息子の出奔の記憶が二人を突き動かす無意識の衝動だろうけれども、これまた全編の背景となっているのは6世紀のブリトン人とサクソン人との和解と裏切りと幼児虐殺を含む凄絶な皆殺し戦の歴史的記憶とその復讐劇といったもうひとつのストーリー性で、このあたりはいくら斬新な文学的試みを見せても、アメリカの小説のように方法意識で飛んでしまわないで、ずっと地を這うような社会性を引きずってきたイギリス文学の優れた伝統を引き継いで、いまやその代表格になってしまったこの日系作家の性格をよく示している気がした。
チャレンジングな作品、ひとことで言えば。