2012年03月

2012年03月29日

青い塩

 イ・ヒョンスン監督の「青い塩」を見てきました。ストーリーは単純で、もとやくざ幹部で引退して料理学校へかよう中年男の「おじさん」と、組織の命令で彼を監視するために料理学校で彼に近づき、やがて彼を暗殺する指示を受けた美少女との純愛メロドラマにして殺し屋の登場するハードアクションものエンターテインメント。

 でも料理をうまく使ったり、タイトルの「青い塩」がうまく使われたり、二人の関係が「人と人の関係はそう単純じゃない。いろんな色の関係があるんだ。」という作中人物のせりふにあるように、ありきたりの男女の色恋ざたでないところなど、行き届いたつくりがこの映画をある種のフランス映画を彷彿とさせる洗練されたオシャレな映画にしています。

 そしてキャストがみなすばらしい。主人公をつとめるソン・ガンホは韓国でも人気の高い俳優だそうですが、こういう若いときからイケメンでもなんでもない、そしていまや「普通のおじさん」に見えるような俳優が愛され、尊敬されるというところが韓国のすごいところだと思います。

 ホ・ジュノの「春の日はすぎゆく」の主人公の中年男もそんな人でしたが、さあわが日本の映画界で彼らのような人がいるだろうか、だれにあたるだろうか、と探してみると、本当に思いつかないのです。

 かつての高倉健でも菅原文太でも最初からカッコいいじゃないですか。いま中年役が板についてきた佐藤浩や役所広司なんかも、もともとかなりイケメン系だし、そういうのじゃなくて、最初からぜんぜんイケメンでもスマートでもなくて、役者としての人間的な「味」で勝負できるような役者でこういう中年男になってますます熟してきたなぁ、といえるような俳優さんって、いるのかしら。

 ソン・ガンホ演じるドゥホンの部下として最初から最後まで行動を共にする若い男、それからドゥホンとセビンの恐ろしい敵になるもう一人の暗殺者の若者もなかなか良かった。この二人は今後の韓国映画で’買い’です。

 そして、最後までとっておいたのだけれど、もちろん今日の投稿はこの人のことを書くため(笑)…ヒロインの少女セビンを演じたシン・セギョン。ほんとうに可憐で映画を見ていて彼女が登場するだけで飽きなかった。

 シン・セギョンはテレビドラマ「明日に向かってハイタッチ」(だったかな)というのでずっと見ていましたが、あのときはちょっと田舎臭いところのある家政婦さんの役で、雇い主の家の次男だったかの高校生の男の子の憧れの「おねえさん」という役回りで、今回とは印象が全然違いました。

 「ハイタッチ」ではちょっと田舎臭いところのある、でも綺麗なお姉さん、という印象でしたが、「青い塩」の暗殺者としての彼女はシャープで洗練された美少女。殺し屋という苛烈な宿命を負って、荒んだ生活、研ぎ澄まされた狙撃の名手としての冷徹さを備えながら、同時に年齢相応の幼さと無邪気さを失わず、純粋無垢な心を失わない、可憐で哀切な姿をみせて観る者を惹きつけずにはいません。

 ドゥホンが彼女に「お前は知らないだろう。料理しているお前がどんなに可愛いか・・・」というシーンがありますが、観客はみんなうん、うん、ほんとにそうだ、とうなづく(笑)。もうめちゃくちゃ可愛らしい。

 こういう女優さんの旬のときに巡り合って映画がつくれる監督は幸せでしょう。ある種の硬さも、この年齢での暗殺者という役柄にはかえってぴったり。初々しさと危険な匂いとが同居して、この上なくテンションの高い美しさ、可憐さを発散しています。

 それを受け止める「普通のおじさん」になった元やくざの幹部ドゥホンがまたすばらしい。エンディングはマット・デイモンの殺し屋シリーズの一作目「ボーン・アイデンティティ」のエンディングそっくりだったけれど、それもご愛嬌。後味もよくてすっきり。










saysei at 23:56|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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