2005年05月
2005年05月29日
モーターサイクル・ダイアリーズ
ウォルター・サレス監督の「モーターサイクル・ダイアリーズ」をDVDで観る。監督の腕前は「セントラル・ステーション」で証明済みだが、今回はロバート・レッドフォードの製作総指揮で、若き日の革命家ゲバラを「アモーレス・ペロス」で強烈な印象を残したガエル・ガルシア・ベルナルが演じる、というので映画館で見損なってからDVDの出るのを心待ちにしていた。
ほんとうに素晴らしい青春映画に仕上がっている。氾濫している、お定りのうわついた「青春映画」ではなく、人生に、世界に、まともに向き合おうとした、優しく、つよく、ナイーブな理想と志に満ちた青春を描く、ほんものの青春映画だ。
革命家以前のゲバラを描いているので、政治的なメッセージはないが、そのことに誰も不満の声をあげることはないだろう。政治的なメッセージはないが、豊かなリリシズムのなかに、人生についての、世界についての、強烈なメッセージがこめられている。
主演のガルシア・ベルナルのすばらしさ。知的で一途で、シャイなあの笑顔は一度観ると虜になる。すこしストーリーが展開されていくと、表情がだんだん本当にゲバラの若いころに似てくるような気がする。相棒のロドリゴ・デ・ラ・セルナもすばらしい演技だ。
ロードムーヴィーの性格を備えて、南米各地の美しい自然や、もともと自然とともにあるがままに生きてきたのに、資本に追い立てられて放浪したり、アマゾンの対岸に隔離されたりする人々の光景が目に焼き付けられる。オートバイにまたがったエルネスト(ゲバラ)と友人アルベルトは、そのあらゆる境界線を切り裂きながら、それらの光景をつないでいく、強く鋭利な横断線だ。
メイキング・ビデオがまた、すばらしい出来だ。エルネストと旅をともにしたアルベルトが生存していて、80歳を越える高齢にもかかわらず元気で頭脳も明晰。彼が撮影隊に同行して、50年前に訪れた土地を次々に訪れ、驚くべき記憶とユーモアに満ちた言葉で、そこにオートバイがあり、こんなふうに彼が自分の背中を押すようにして励ました、と昨日のことのようになまなましく、映画に描かれた世界を再現していく。実にスリリングだ。
ほんのひとときエルネストと触れ合った、ハンセン氏病の患者や、宿を提供した人などが、エルネストの振る舞いや言葉を、とても半世紀前のことを語っているとは思えないほど細部まで憶えていて、愛情こめて生き生きと語る姿は感動的だ。その一事だけで、エルネストがどんな人物だったかということが理解できる。
彼は生涯すぐれた医者としてシュバイツァーのように慕われ、尊敬され、90歳までも100歳までも生きることもできただろう。けれども、そうはならなかった。
なぜなのか、それをこの映画は静かに、感動的に教えてくれる。
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