2006年09月02日

シャガール展と「A to Z」展

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 青森に新しく県立美術館ができたので見に行った。外壁も内装も真っ白の壁は鮮やかだけれど目に痛い感じ。ギャラリーは絵を生かすために壁面は白で、というのは一般論として結構だけれど、休憩室やトイレ、食堂やショップへの通路まで、こんなまぶしい白を使う必要があるのかと疑問を感じる。

 すぐ背後には三内丸山という縄文の巨大な遺跡が広がって、緑が目にやさしい。そこで一人エエカッコしぃの白亜の殿堂が立っているって感じ。せっかくの新しい時代の美術館なのに、これでは県民に愛され親しまれるような雰囲気を拒絶しているかのよう。

 そういえば建物自体が外部に開かれた部分が目につかず、白い倉庫のように閉じている。広い明るいロビーというものもない。入り口を入ると狭い通路を左手の入館券売り場へ進むように言われる。この入館料が企画展+常設展で1800円。開館記念展は莫大な経費がかかっているだろうから、仕方がないとは思うけれど・・・。

 それにしてもこのシラジラした建築空間にはとても不満。

 でも開館展のシャガールは見ごたえがあった。バレエ「アレコ」の巨大な背景画を4面の壁面に高い天井から下げた専用展示室の光景は圧巻。これが開館展の目玉だろう。1点はフィラデルフィア美術館からの借用だけれど、あとの3点はこの美術館が購入したらしい。空間自体がこれらの作品のためのオーダーメイド、この空間はすばらしい。

 ほかにもシャガールのすばらしい作品がよく集められていた。パステルやモノクロの素描にもとてもいいものがある。

 もう一つのハイライトは、「アレコ」の舞台衣装を立体的に配して展示した部屋。一点一点の衣装も明るくユーモラスで面白いけれど、この天井の高い展示場を巨大な舞台のようにしつらえ、舞台に立つバレエダンサーのように奥行きをたくみに使って衣装を配置し、全体として舞台のワンシーンを
見るように観客に対面させた演出は見事なものだ。

 開館展で土日には大勢の来館者があるだろうから、スタッフがやたら多いのは仕方がないと思うけれど、尋ねもしない人に言わずもがなの解説をしかけるのは、ちょっと「親切」すぎる。意気込みは理解できなくはないが、「小さな親切よけいなお世話」という、あまり好きではない言い方があるけれど、あれを思い出してしまった。

 レストラン「4匹の猫」では、津軽の郷土料理をアレンジしたお洒落なおいしい料理が食べられる。ここで「津軽鶏と青森産りんごのカレーライス」(1,180円)と有機栽培コーヒー(520円)を食べた。メニューは4匹の猫の物語が画家の絵本のように構成されて、それもまたお洒落。

 空港から1時間に1本だが、シャトルバスが出ている。ただし、20分ほど乗るだけなのに、1000円は高い!たいていは観光バスや自家用車で来館しているらしい。

 すでに10万人を突破!という張り紙がしてあった。しかし、常設展の内容をみると、さて立地もかなり郊外だし、積雪の冬のこともあるし、普通半減するといわれる5年後の来館者数をどこまでもちこたえるか、この産声をあげたばかりの美術館の活動が問われるのはこれからだ。

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 翌日は鈍行に乗って小一時間、弘前へ行き、奈良美智とgrafによる「A to Z」展を訪れました。7月末から10月まで3ヶ月だけ、吉井酒造という酒屋さんのレンガ倉庫の巨大な内部空間に仮設の小屋を建てて、観客は迷路をめぐるように狭い通路を歩き、階段やはしごを上り下りし、AからZまでのさまざまなサブ展示空間に配された絵画やインスタレーションを体験するという趣向です。

 小屋の色々なところに小窓や小さな穴があいていて、同じオブジェを思わぬ視角からみて新鮮な驚きを味わったり、キリンが長い首を出している天井裏へはしごを上って、首を出して周囲の動物たちを見ている自分が、一段高い回廊をゆく人々から、首を出している動物たちと同じオブジェとして見られていることに気づかされる楽しい仕掛け(三沢厚彦"Animals")があったり、遊びごころいっぱい。

 素敵だったのは、室内の花園に数人の子供たちが輪を描いてうつぶせになっている Hulahula Home 。ヤノベケンジのトラやんが登場する「青い森の映画館」も面白かった。

 しかし、このイベントのハイライトは、一人しか通れない最後に急な階段を天井裏まで上がり、長い桟橋を渡って、黒く光るビニールが一面に張られた夜の海のような異次元の空間に入り込む瞬間だ。金色の船の脇を通って細い突堤を島に渡ると、向こうに夜の海に浮かぶ三つの巨大な人の首を平たく圧縮したような異様な漂流物を眺めることになる。
 この人工的な光景はしかし、圧倒的な印象を与える。幼いころにみた引き込まれてしまいそうな夜の海、あるいは死後に自分の漂う海、とうに消えてしまったと思っていた心の闇のように。

 奈良美智の作品は、あの特徴的な目のつり上がった女の子に至るまでに、いかに多くの試行錯誤があったかを見せてくれて、その圧倒的な量に感動する。

 たくさんのアーティストが出品しているけれど、残念ながら写真には心を動かされる作品が一つもなかった。

 けれども、この展覧会全体は本当に現代美術の楽しさを堪能させてくれる十分な量と質を備えている。ここでは、分かるとか分からないという、現代美術のお行儀のよい「鑑賞」につきまとう言葉は誰の口にものぼらないだろう。散歩のようにぶらぶら見てあるくだけで楽しく、笑ったり、微笑んだり、癒されたり、ハッとさせられたり、反芻させられたり、いろんな感覚と感情を体験させてくれる。

 参加しているスタッフが、「仕事」でやっているふつうの美術館の監視員などとは全然ちがって、生き生きとしていい笑顔をしている。みんなこのプロジェクトに参加していることが楽しくて仕方がなく、またみんなに見てもらいたい、愉しんでもらいたい、という気持ちが全員の表情に表れている。

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