2019年07月05日

藤井道人監督「新聞記者」をみる

 必見の映画です!とくに参議院選挙前に(笑)

 冗談はともかく、まじめに、なかなか面白く、かついい映画でした。単なるエンターテインメントの決まりきった筋書きに、背景として権力の陰謀なんてのを入れておく、というまたかよ、みたいなお手軽な娯楽映画の域を超えて、ほんとにありそうだよな、と思う分、後味が悪いなぁ、と或る意味で感じながら映画館を出て、だんだんと自由にものが言いにくい世の中になっていくいまの日本社会、マスメディアのありよう、官僚のありよう、わたしたち自身のありようを、観客に振り返らせる力のある作品だと思います。

 朝日新聞の7月4日の紹介記事の中で、プロデューサーの河村光庸氏が、この映画を「政治の話題を嫌うテレビは、なかなか紹介してくれない」と言い、「(政権に批判的な映画に関わると)『干される』と、二つのプロダクションに断られた」と語ったと書かれています。既にメディアの世界、映画の世界、多くは「自主規制」的な形であれ、そんな風になっているようです。あれはよし、これはだめ、なんて偉そうに作品を評価する批評家なども、そういうことにはずいぶん鈍感なようです。いや、身の安全のためですか(笑)

 企画から手掛けたという河村プロデューサーはじめ、「政治無関心層」だったという若い藤井監督、それによく知られた人気の若手俳優なのにこういう作品に出演した好演の松坂桃李、子役のときからとてもすばらしい女優の資質を持った韓国の名優シム・ウンギョンらキャスト、スタッフに敬意を表したい作品です。

 生物化学兵器の生産云々という隠された権力の動機づけは、エンターテインメントとしての物語のつくりとして必然性はあったでしょうが、それをもって現実離れした絵空事だと考えることのできないリアリティが、それ以外の部分、権力のありようやマスメディアのありよう、その中での一人一人の個人のありように確かなものとしてあるので、映画を娯楽としか心得ない私のような気楽な観客でも、ちょっと怖くなるようなところがあります。

 脚本にダレがなくて全体にテンションが高く、なによりも主役二人の好演が作品を支えていると思いました。とりわけシム・ウンギョンが回想場面で父親の遺体を見る場面での泣きは、日本人女優の誰もこの真似は出来ないだろうな、と思うくらい素晴らしいシーンで、まさにこういう経緯、こういうシチュエーションで、こいう父娘の関係であれば、こんなふうに泣くしかないだろうと思わせるような演技で、あらためてこの女優さんのすごさを感じさせました。彼女のアップが多かったけれど、そのカメラも効果的で、この女優さんの表情の変化をよくとらえて、小説なんかで言えばひとつひとつの言葉が炊き立てのご飯の米粒が光って立っているような輝きを感じさせてくれました。どこかいま見えているものとは別のものをいつも見ているような、結構つらい、陰鬱といっていい表情なのですが。

 松坂桃李もラストで権力のダメ押しにボロボロになって崩れ落ちる寸前の表情というのが、とても良かった。同様に横断歩道を隔てて彼と向き合った、いま命をとりにかかろうという権力の最後の脅しを受けたばかりの女性記者(吉岡)が彼に声をかけようとする、そこで終わっています。このラストがすごくいいし、二人の表情がすばらしい。

 まだ見ておられない方は、ぜひぜひ映画館でごらんください。

 

saysei at 18:22│Comments(0)

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